特別対談

地ムービープロジェクト主宰 谷國大輔 × 映画監督 瀬木直貴

瀬木:谷國社長は「地ムービープロジェクト」を立ち上げられていますが、“地ムービー®”という概念は、「ご当地映画」「地域映画」とは別のニュアンスに感じますが、どのような思いで“地ムービー”という言葉を創り、活動されているのでしょうか。

谷國:まず、映画というものはジャンルとして地域の映画と思われたくない、映画は映画であるということです。ただ、どの映画も地域との関わりがあって制作が成立する。例えば『グラン・トリノ』はデトロイトの地ムービーですよね。そういう意味で海外作品もどんなメジャーな作品も地域と関わっている、即ち“地ムービー”という言い方ができる、というところから始まりました。

瀬木:僕も一緒です。映像はそこに何かが映る、映るということはある地域の具体的な何かが存在する、どのような映画でも何らかの形で地域と関わらざるを得ないわけです。ということは全ての映画が“地ムービー”であると言えると思います。「ご当地映画」や「地域映画」とは違う意味で“地ムービー”のイメージを捉えています。

谷國:そうなんです。無理に「ご当地映画」にしてしまうと、地域活性化をしなくてはいけない、観光客を呼びこまなくてはいけない、という話になってしまうんです。しかし実際、映画で観光客が増える可能性は(当該地域で撮られた映画作品のうち)1割から1割5分程度です。有名な俳優が出演した作品の場合なら有り得るかもしれませんが、現実はほとんど来ないんです。日本映画のバジェット規模では、地域への経済メリットはそこそこ程度で、ハリウッド映画の誘致とは格段の差があります。さらに、「地域映画」と言ってしまうと映画自体も地域に引っ張られて、質が悪くなる可能性が高い。地域側も映画さえ撮れば地域振興につながると考えて、お互いに本質を見失うことも多いのです。地域の映画としてジャンル化するのは映画にとっても地域にとっても良くないことだと思います。

瀬木:僕もジャンル化はナンセンスだと思っていて、映画としてのクオリティが低く、地産地消では意味がない。地元の映画を応援して下さる皆さんの目標は、よりよい地域社会づくりに貢献すること。一方、僕ら映画人はクオリティの高い映画を作ること。結果として地域に貢献することはあっても目指すゴールが違うわけです。そこで重要なのは、地域と映画がいかに“win-win”の関係を作れるかということですよね。
最近悔しい思いをしているのが、地域で映画を撮る時に「悪しき前例」が横行していることです。地域を食い物にしている映画人まがいの輩や、時には公の方だったり民間の方だったり、そうした無責任な人々に地域が翻弄されてしまって、「映画を二度とやりたくない」という雰囲気になる。そういう地域にあるご縁をいただいて僕が行った時は、映画に対するネガティブなイメージを覆すことから始めなくてはならない。そういうことが余りに多いので、僕も地域に関わってきた人間のひとりとして、地域と映画が“win-win”の関係になれる映画作りをしていきたいと思っています。

映画は信頼関係を築きながら作り上げるもの

瀬木:谷國さんは僕以上に失敗例も含め、様々な事例を見聞されていると思います。

谷國:やっぱり映画を作る上で大切なのは、お金の計算が出来る人がいるかいうことですよね。

瀬木:映画はお金がないとできませんからね。

谷國:結局映画は興行ですから、このくらいの映画だったらこのくらいの人が見るだろうというマーケットがあるんです。興行予測がこれぐらいだからこのくらいのお金が必要だと言ってお金を集めるならいいんですけど、とにかく集められるだけお金を集めて、大きなセットを作ってしまって、それで観光客が来るかといったらそれほど来なくて・・・そういうことをしてしまうと地元の皆さんは疲弊してしまう。地域で映画を作る時に、地域側は何を分担して、プロである映画人とどこでコラボレーションするかという判断がかなり難しいわけです。

瀬木:悪質な例として詐欺まがいのものもあるんですよね。僕の作品の場合、既存の配給システムにのっとって製作する場合もありますが、地域の皆さんで構成する「製作上映委員会」が「製作協力券」という券を発行して、その券が映画完成後は前売鑑賞券として使われるという場合もあります。いずれにせよベーシックな契約をお互いがきちんと理解した上で締結し進めることが大切なのですが、見切り発車が非常に多くて……。

谷國:僕もいくつかの作品の製作・上映、それから配信などをしているのですが、そもそもの契約書自体が紛失していたり、資金集めにしても出資法に照らして明らかに危ないものを知識がないままに進めてしまっていたり、ということがあるんです。現実はお金や契約にルーズになるプロジェクトが散見されている、そういう作品は地元の民間企業を食いつぶしてしまう危険性があると私は思っています。

瀬木:地域から文化を発信していこうとしているのに、全く逆効果ですよね。

谷國:もちろん良好な関係が結べているものもあります。しかし、フィルムコミッションではブラックリストを作って支払いの問題をチェックするようにしているところもあります。最近では、地域側も単に映画を受け入れていればいいというわけではないということをわかってきています。ただ、日本全体の人口も減り、明るい話もないため、やれ俳優が来るだ、観光客が来るかもしれないという浮いた話に飛びついて見切り発車してしまう例がいくつもあります。映画業界側も地域側も、できれば何か問題になる行為を繰り返してないか、お互いに、口コミによるチェックをしておいたほうがいいかも知れませんよね・・・、きちんとした実績がある方と前段階から腹を割って、本当の意味での打ち合わせをしなくてはいけないと思います。

瀬木:映画作りとは信頼関係を築きながら作り上げるもの。これはとても面倒なことのように思えますが、縁があるところに映画はできるので、この面倒なことをやらないと双方にとって良くないと思います。

映画と地域の新しい関係

瀬木:マイナス面ばかり話してしまいましたが、映画には夢があるのは事実です。映画が地域に対して、どのような好影響を与えるかということについてはどうお考えですか?

谷國:まず、文化面は大きい、当然ですよね。地域の資源だったり、監督の作品『ラーメン侍』もそうですよね。私は瀬木監督の『ラーメン侍』を見てとんこつラーメンが久留米発祥と初めて知りましたし、その後とんこつラーメンがやけに食べたくなって、よく食べに行くようになりました。(笑)

瀬木:ありがとうございます。(笑)

谷國:映画は基本的に劇場で観て、そのあとにDVDやテレビ放映などの2次利用、3次利用に繋がっていきます。そして今、新しい形でネット上での映画配信がありますが、まだまだ伸びていません。私は映画業界自体が厳しくなっていく中で、“衣食住”をテーマにした『ラーメン侍』のように、映画は身近なものなのだということを見せたくて“地ムービー”を始めたんです。例えば、地ムービーポータルサイトで、“ラーメン”と検索すればラーメンにちなんだ映画が出てきたり、“〜小学校”と入れたらその学校がエキストラで協力した映画が出てきたりします、そういうところから映画を身近に感じ、興味を持ってもらえればと思います。実は映画に映っていたり、ロケで振る舞われたりなど、食べ物を扱った「映級グルメ®」のイベントというのを東京でやろうと思っています。

瀬木:それは面白そうですね。

谷國:グルメなどで映画のすそ野が広がってくると、自ずと地域も活性化し、映画も生活の一部として自然に観られていくと思うんです。この前、地ムービーのイベントをいくつも展開しました。まだ試行錯誤で、結果は玉石混淆でしたけど、ご当地キャラクターや地域の伝統芸能、ライブコンサート、映級グルメなど、映画に関連したものをいろいろと取り入れて、観客に大変よろこばれたイベントもありました。

瀬木:なるほど。地域にとっての映画とは地域を大きく動かすきっかけになると思うのですが、その周辺で食や観光開発、商品開発であるとかキャラクターグッズであるとか、そんな様々なアクションがついてきて初めて僕は意味があると思います。映画はあくまでも核なのだと思います。
昨年、『GOOD LUCK〜恋結びの里』という57分の短篇映画を三重県で撮りましたが、ほとんどの上映回に舞台挨拶をつけたんです。結果的には計画の半分くらいになってしまいましたが、この試みの狙いは、映画は観るものではなく行くものだということを感じてほしかったんです。劇場に行ったら何か楽しいことがあると。
また僕の作品の場合、一般オーディションの際、500人以上応募者があっても書類審査を一切せず、全員に面接をしています。浜松を舞台にした新作『果てぬ村のミナ』では、オーディションをお祭りにしたんです。映画の舞台となる地域に廃校があり、そこをNPOが指定管理者制度で“道の駅”のような集客施設にして運営しているんですが、そこの教室で公開オーディションをしました。僕が参加者とワークショップ形式で飛んだり跳ねたりしているのを、廊下からたくさんの見学者が見ているんです。そして待合室には僕の今までの作品のポスターや新聞記事、作品の予告編を流したりするスペースを作りました。それ以外の部屋では映画に関連するキャラクターグッズの販売や、校庭にはその地域の名産品が屋台で登場しました。まさにお祭りのようでした。とても盛り上がりました。
このように、映画を作る前段階も、撮影時も、上映の時も、お祭りにしていくことによって、そこには多くの人が集まってくる。実際、浜松のオーディションには、地元の人だけではなく、東は東京から西は兵庫県からも来場されました。

谷國:これまでイベント学会で二回発表しているのですが、僕も映画の製作自体がイベントになっていると気がついて、それを体系化しました。撮影前でこういうようなイベント(オーディションなど)があり、ロケ時には、例えば祭りのシーンがあれば祭りをそのまま復活させ、祭りをやっているのと変わらない状況になっているとか、上映時に宣伝タイアップでこんなイベントがある、それから上映後の2次利用ではロケセットでこんな展開をしてるなどと、調査研究したことがあります。しかし、それらをきちんとトータルにやるのは前準備が必要です。そのやり方がわかっている方、地域のことをわかっている方、そして地域の方に無理にではなく主体的に参加していただけるように協力申請が出来るコミュニケーション能力の高い方が必要だと思います。

瀬木:観光客が来るというだけではなく、外の人たちがその地域に視線を向けるということだけでも僕は意味があると思います。また、1本の映画は多くの人々が関わって出来ますから、映画が地域に来ることによって、それまで出会わなかった人たちが出会い、いわゆる地域のネットワークが出来ていく。人間ですからいがみ合うこともあればついたり離れたりする部分もありますが、どこにどのような人材がいるかを地域の皆さんが共有していくだけでも意義があると思います。映画が来なければ出会わなかった人々が出会い、縁が縁を呼んで、縁が広まっていく、こうすることで「地域力」も高まる気がするんです。
映画がその地域で撮られることによって、自分たちの地域に対して誇りを持ってもらえるような精神的な土壌を用意してあげるのが映画の仕事でもあるかもしれない。アイデンティティーの再構築ということですね。僕の作品もそういう風になればと思います。

映画は何処へ向かうのか

谷國:地域で作る時に予算の適正規模があると思うんですよ。

瀬木:そうですね。地域ではある程度お客さんが見込めるかもしれませんが、全国で公開した時のことをきちんと考えてプロダクトしていかないといけないですね。映画産業は今本当に厳しくて、年間の興行収入がだいたい約1800億、大きい企業の年商くらいに過ぎません。これで産業と言えるのかなと思ってしまう。数字だけでみると。

谷國:その90数パーセントがきまった映画会社で製作・配給されていますし、広がりがない。だから、きまった会社以外のインディペンデントの会社のマーケットはどこにあるのかということをきちんとスタデイするべきではないかなと思うんです。メジャーとインディペンデントとはもしかしたら、かなり違うマーケットなのかもしれない。そのマーケットを調べることをしなくてはいけないと。そして、映画上映以外のスキームを伸ばすことですよね。映画上映+αをいかに引っ張っていくか、どちらかというとそちらの方が僕の使命だと思っています。映画が+αで面白くなる仕掛をしていきたいと思います。

瀬木:映画全体の状況ですが、日本だと約3,300スクリーンで公開されるのは年間約800本、一方、アメリカは3万スクリーンで公開されるのが500本ちょっとと聞いています。最近は、見に行こうとすると既に公開が終わっている経験が多いでしょう。こうしたことを考えると、1本の映画作品の公開の長さのみならず、谷國さんがおっしゃる通りイベントなどのプロジェクトと連動して進めていく必要があると思います。

谷國:そうですね、映画は時間的な制約が大きなネックで、観たい時間が合いませんよね。それで最近は半年かからないうちにDVDになる。そのうち相当な安価でDVDがレンタルされるようになって。メジャーはそれほど嫌な思いをしないかもしれませんが、インディペンデントの人たちにとったら厳しいですよ。安くDVDレンタルで観られるなら、映画館には行かなくなりますからね。一方、最近は映画館の方も映画ではなく、コンサートやスポーツの上映もするようになっています。

瀬木:大きいテレビみたいですよね。ゲームも出来るそうです。

谷國:そうですね。音楽もCDが厳しくてもライブが大きな収益源になってますし、最近はライブが求められてきているのかなと。だから映画も舞台挨拶とかライブ感を付けることが大切かなと。瀬木さんの『GOOD LUCK〜恋結びの里』はひとつの大きな試みですね。映画のリアルな部分を引き出していくことがインデペンデントの強みになるのではないでしょうか。

瀬木:以前の映画人は「作品が全て」とすましていられたけれど、現在はそれだけではいけないと思います。僕も作り手としてライブな部分を発信していかないといけないと考えています。

(2012年4月23日)


谷國 大輔(たにくに・だいすけ)プロフィール

地ムービー 主宰・編集長
地域プランナー(一級建築士)プロデューサー(イベント・映画)
早稲田大学理工学部卒業。戸田建設で実務経験し一級建築士を取得後、同大学院修了。電通、政府系シンクタンク、バリーオ代表取締役、再び、電通を経て現職。国・自治体・民間企業等で、まちづくり・観光・イベント・博覧会・中心市街地・商店街、並びに映画・動画に関わる各種委員・プロデューサー・アドバイザーを歴任。日本国内のミレニアムイベント関連事業の仕掛け人(ピース2000倶楽部 主宰)。映画学校のOBで、映画・動画の製作・上映・配信等に携わっている。
著書に、「映画に仕組まれたビジネスの見えざる手 なぜ映画館にはポップコーンが売られているのか 」(スマートブックス) 、「大世紀越え・2000年イベント」(JACE)、「中心街・元気マニュアル」(商店建築社)、「観光実務ハンドブック」(一部執筆担当 丸善)、映画にしくまれたカミの見えざる手 ニッポンの未来ぢから」(講談社+α新書)等がある。

地元☆ジモトの動画・映画=地ムービー®
地ムービーはマスコミ・媒体です。
『地ムービーポータルサイト』http://www.jimovie.jp/
『地ムービーfacebookページ』https://www.facebook.com/JIMOVIE/
『地ムービーYouTubeチャンネル』https://www.youtube.com/user/regionalmovie
『地ムービーTwitter』https://twitter.com/regionalcinema

公開中の映画

mother lake